あおば法律事務所
私たちの求める司法救済制度とは

私たちの求める司法救済制度とは

 私たちは、水俣病問題は、チッソ・国・熊本県の責任において解決しなければ、最終的な解決にはつながらないと考えています。そこで、チッソ・国・熊本県を被告としてノーモア・ミナマタの思いを込めた損害賠償訴訟を提起し、三者の責任での解決を求めています。そして私たちは、水俣病被害者の救済に関して、最終的な解決となる手段として「司法救済制度」を提案しています。これは、司法すなわち裁判における「和解」という手続を利用した救済手段です。ここで「和解」と言っても、なあなあで手を打とうというものではありません。あくまでも、これまで裁判によって水俣病被害者が救済されてきた実績を踏まえ、その司法基準を前提としたルールに従って、適切な水俣病被害者救済を実現しようというものです。すなわち、裁判の確定判決だけを見ても、水俣病第二次訴訟福岡高等裁判所判決や、水俣病関西訴訟最高裁判決では、一定の基準に従い、水俣病(有機水銀中毒)と認めて救済してきたということが前提なのです。
 実際の救済手続から概説すると、救済を受けようと思う被害者は、原告として、まずチッソ・国・熊本県を被告とした損害賠償訴訟を提起します。そして、裁判の証拠として、診断書などの水俣病被害者であることを証明する一定の資料を提出します。裁判所は、あらかじめ決められた判断方法に従って審査をし、水俣病としての救済対象者と認めた場合、原告・被告ら双方に和解の勧告をします。双方がこれを受け入れれば、和解成立とし、必要な救済を受けられるようにします。
こうした司法救済制度が実現し、機能するためには、前提としていくつかのルールが、司法救済制度にかかわる関係者の間で、あらかじめ決まっていなければなりません。
 まず第一に、裁判において水俣病としての救済対象となる患者とは、どのような人たちであるのかが決まっていなければなりません。これまで裁判の場では、メチル水銀に汚染された不知火海産魚介類を多食してきた事実(メチル水銀に曝露してきた事実)と、水俣病に特徴的な症状である感覚障害(四肢末梢性感覚障害や舌先等の二点識別覚障害)があれば、メチル水銀の影響による健康障害であるとして、救済対象とされてきました。最高裁判所も、この基準を妥当としています。私たちとしては、司法救済制度においても、この基準を採用し、裁判所が認める水俣病として救済対象にすべきだと考えています。
 第二に、この救済対象者であることを証明するための証拠として、どのような資料を提出すべきかを決める必要があります。メチル水銀曝露の事実については、これを直接証明する資料がないのが通常ですので、居住地、職業、同居の家族の健康状態、本人の供述などが考えられます。感覚障害等の症状については、医師による水俣病としての診断書になります。ただ、どんな診断書でも良いということではなく、裁判所での審査に必要な検査項目と検査の仕方も決めておくことが必要になります。例えば、四肢末梢性感覚障害の検査として、触覚の検査は筆で行い、痛覚の検査は痛覚針で行うといったことを決めておき、医師にはそのルールで検査をしていただき、診断書を作成していただくことになります。この点に関してホークス電車、平成18年4月には、永く水俣病研究に携われた熊本学園大学の原田正純教授らにより、「共通診断書」という水俣病に関する診断書書式とその診断方法が策定されていますので,これを利用するのが妥当と考えています。
 第三に、和解によって受け取る補償金の額が決められる必要があります。その前提として、原告が裁判で請求する水俣病としての損害賠償は,基本的に慰謝料(一時金)ですので、最高裁判決が認めた基準に従って、症状に応じて400万円から800万円までのランク分けがなされるべきです。もちろん、ランク分けの前提となる症状等については、前述の診断書に記載されていることが必要になります。そして、この一時金を誰がどの程度負担するのかという被告らの負担割合としても、最高裁判決に従い、チッソは本来全額負担すべきですが、国・熊本県がそれぞれ四分の一を負担することになるのが妥当でしょう。
 裁判所では、以上のようなあらかじめ決められた基準に従い、原告一人一人について、裁判所で水俣病として救済する対象者に該当するか否かを判断していただき、補償として受けるべき一時金の金額を定めた和解勧告を出していただくことになります。これまでの説明でご理解いただけるように、この基準は,もともと裁判で原告が勝訴する要件を設定し、勝訴した場合に受けられる一時金を算出するものですから、裁判所の出す和解勧告は、いわば判決になればこのようになるという意味を持つことになりますので、当事者は受け入れざるを得ないものとなります。結局、裁判手続によるものではありますが、迅速な救済が実現することになるのです。
 ところで、水俣病被害者の救済としては、これだけでは不十分です。裁判外で、恒久的な対策が求められることになります。
 すなわち第四に、水俣病被害者の適切な救済内容としては、裁判で求める一時金だけではなく、それが治癒しない健康障害であることからして、医療費と療養手当が将来にわたって継続的に支給されるべきです。この点については、最高裁判決で勝訴が確定した被害者らが現にこうした救済策を受けていることを参考にすべきでしょう。この医療費・療養手当については、不知火海沿岸住民及びその出身者に対する社会福祉的行政施策の意味を有するものとして、行政側が費用を負担することが妥当ではないかと考えています。
 このように、水俣病被害者救済問題の解決には、チッソ・国・熊本県の三者の責任による解決が不可欠なのです。
 そして、こうしたルールは、現在提訴しているノーモア・ミナマタ訴訟原告団とチッソ・国・熊本県との間で、将来提訴する水俣病被害者にも適用するものとして、基本合意の形で取り決めることができると考えています。当事者間で協議が整わない場合は、裁判所が公平な立場から所見を示すことにより、合意形成が可能と考えています。こうした基本合意の形成と、これに従った司法救済という救済方法は、国が被告となったケースでも,ハンセン病訴訟や薬害エイズ訴訟など、多くの被害者が出た事件で実際に行われ、被害者救済に有効であることが確認されています。
 ところで、現在、水俣病患者として救済を受ける法制度としては、公害健康被害の補償等に関する法律に定めるところの、いわゆる行政認定手続があります。これは、熊本県・鹿児島県に認定を申請し、検診を受け、県の認定審査会の審査を経て、県知事から水俣病患者として行政認定を受ける手続です。この行政認定を受けることができれば、一時金として重症度のランクに応じて1600万から1800万、医療費・療養手当が支給されます。ただし、この行政認定基準は、複数の症状の組合せが認定の要件とされており、厳しい上に、熊本・鹿児島両県とも、審査会委員のなり手がいないため、事実上機能を停止中であり、今後も再開のめどは立っていません。すなわち、行政認定を申請しても、いつになるのか全く不透明な状態なのです。
 なお、このような認定申請者を認定も棄却もせずに放置するという行政の不作為状態が続いた場合、その不作為状態自体が慰謝料請求の原因になり得ることは、いわゆる「待たせ賃」訴訟の最高裁判決でも認められており、行政の怠慢は許されません。行政すなわち国・熊本県は、自らの責任において、水俣病被害者救済問題の解決に取り組む必要があるのです。
 私たちが提唱している司法救済制度は、この行政認定制度とは別のもので、行政認定の手詰まり状態をも解決するものです。すなわち、水俣病被害者は、どちらか一方の救済のみを受けることができるものとします。例えば、司法救済制度により和解が成立した場合には、行政認定申請はしない、既に申請している場合は取り下げることが必要とします。あくまでも高額な補償となる行政認定にこだわるのであれば、それはその方の自由ですが、司法救済は受けられないこととします。こうすることで、水俣病問題における被害者救済問題にピリオドを打つことが可能となるのです。
 チッソと熊本県は、水俣病第三次訴訟において、こうした司法救済制度の実現に同意したことがありました。それが国の頑なな拒否と平成7年の政治解決という曖昧な決着によって実現しなかったのですが、その結果が今日の混迷をもたらしたと言えます。今度こそ水俣病被害者救済の最終決着のため、チッソ・国・熊本県の法的損害賠償責任と裁判で認められてきた水俣病像を踏まえた司法救済制度を実現すべきだと考えます。

以上