あおば法律事務所
弁護団の発表資料

第6陣提訴にあたっての声明

国民の皆様へ

2006(平成18)年8月11日

第6陣提訴にあたっての声明

1 本日、ノーモア・ミナマタ国賠等訴訟における第6陣の被害者原告ら100名の提訴を熊本地裁に対して行った。これで本件訴訟の原告数は、1124名となる。
 これは、水俣病問題について、一昨年の最高裁判決により、国や熊本県の責任が断罪され、52年判断条件に基づく狭い病像が実質的に否定されたにもかかわらず、未だに行政は根本的解決策の展望すら示さないことに対する、原告ら水俣病患者の満身の怒りを込めた提訴である。

2 近時、熊本県及び県議会は、「水俣病被害者」の早期救済のためと称して、与党に対し、平成7年の政治解決と同様の救済策を行うよう要請した。
 しかしながら、この第2の政治解決策は、平成7年の政治解決と同様の救済策を求めるものであるという点で問題がある。
 第1に、平成7年の政治解決は、国、熊本県の責任を前提としておらず、患者を水俣病と認めないものであり、補償内容も司法が認めたものに比較して不十分であったということである。
 熊本県及び県議会は、今回、最高裁判決で確定した「行政責任」を前提に「水俣病被害者」として救済する考えのようである。
 しかし、そうであれば、最高裁判決で確定した司法判断の水準で救済の内容を定めなければならないはずである。それにもかかわらず、平成7年の政治解決と同様の補償内容を要請するのは矛盾であり、言葉のまやかしとしか言いようがない。
 これに対して、熊本県及び県議会は、同様の被害に対しては同様の救済をするという公平性の議論を持ち出して、補償内容を平成7年の政治解決と同様のものにするという。
 しかし、最高裁判決によって、行政の加害責任と52年判断条件よりも広く水俣病と認める司法判断が確定した現在、平成7年当時とは解決の前提がまったく異なっていることを分かっていない。
 平成7年の政治解決は、最高裁判決に照らせば不十分なものであったことは明らかである。現在の救済を、不十分だった過去の救済内容に合わせるべきではない。
 しかも、報道によれば、救済条件はまったく白紙であり、金額の切り下げもあり得るという。これでは平成7年の政治解決よりもさらに不十分な救済となる可能性が高い。
第2に、平成7年の政治解決の際には、恣意的に補償対象から外された人々がいるということである。
 例えば、漁師の家に生まれ、子供のころから姉妹と共に多くの魚を食べ、農家の男性の元に嫁いだ女性が、政治解決の際に、姉妹や夫と共に申請をしたところ、姉妹はもちろん農家の夫でさえ認められたのに、その女性だけ棄却されたという例がある。
 このような行政の恣意的対応は、例を挙げれば枚挙にいとまがない。特に、最高裁判決により行政の加害責任が確定した現在においては、加害者である行政が被害者を選別する制度はまったく信頼できないと言わなければならない。
 水俣病患者の確実な救済のためには、もはや中立公平な第三者である司法の判断によるしかないのである。

3 結局、第2の政治解決策というのは、補償金額を安く抑えようとするものにすぎない。チッソ分社化論と併せて考えてみれば、被害者救済よりも、加害者救済に力点を置いた構造となっていることは明らかである。
このように、経済を優先し人命を軽視する行政の体質は、水俣病を発生・拡大させた当時のそれとまったく変わっていない。

4 また、環境省は、水俣病問題に係る懇談会の委員が作成した提言草案に対し、多くの削除や修正を求め、提言の中心的内容である新たな補償制度についての記述については、全面削除を要求しているとの報道に接した。
 第1回懇談会の冒頭で、小池百合子環境大臣は、懇談会を開催する理由について、「水俣病が抱えてきた失敗の本質は一体どういうものなのか」を検証して将来に活かしていくためだ、と発言した。
 それにもかかわらず、環境省は、懇談会の提言草案に対し、多くの削除や訂正を要求して、その「失敗の本質」をもみ消し、将来に残さないようにしようとしている。
 かつて、厚生省の食品衛生調査会水俣食中毒特別部会が、水俣病の原因はある種の有機水銀であると答申したところ、その翌日、厚生省が同部会を解散させるということがあった。
 このように、第三者機関に判断を求めておきながら、都合の悪い結論になると、都合の良いようにその第三者機関を従わせようとする行政の体質は、今も変わらない。このような行政の体質こそ「失敗の本質」と言わなければならない。
 しかも、混迷する現状を解決する具体策が何らないにもかかわらず、新たな補償制度について全面削除を求めるなどということは、最高裁判決で加害責任が確定した行政の態度として、絶対に許されないのである。
 環境省は、懇談会の提言に手を加えてはならない。
 我々は、懇談会の各委員が、水俣病問題の解決へ向け、精力的に議論され提言の取り纏めに尽力されていることに対し、心より敬意を表するものである。

5 我々は、最高裁判決を基本に据え、司法によって水俣病として救済される道を選択し、自らの健康障害が水俣病であることの司法認定を求めて本件訴訟を提起した。
 全面解決を図るには司法の場しかない。司法救済制度による正当な解決を求めて、断固闘っていく決意である。

水俣病不知火患者会
ノーモア・ミナマタ国賠等訴訟原告団
ノーモア・ミナマタ国賠等訴訟弁護団

以上